新潟地方裁判所 昭和27年(わ)196号 判決 1953年7月15日
主文
被告人を懲役十月に処する。
この裁判確定の日から三年間、右刑の執行を猶予する。
訴訟費用のうち、証人石月寅之助、証人佐藤三郎、証人有坂伝一及び証人有坂タケに対し、昭和二七年一一月二四日の出頭につき支給した分は、被告人の負担とする。
昭和二七年(わ)第一九六号業務上横領被告事件は無罪。
理由
1(罪となるべき事実)
被告人は北海道空知郡富良野町市街地家畜商六平健に対し新潟県西蒲原郡曽根町方面に馬匹を輸送して売却すべきことを勧め、これに応じた同人が種馬二頭及び農耕馬四頭に附き添つて昭和二五年七月二五日曽根町に到着して旅館に滞在し、同日から、種馬二頭は同郡鎧郷村大字槇島の佐藤三郎方に、農耕馬四頭は同郡鎧郷村大字西汰上の有坂伝一方にこれが保管を託し、その食餌の管理及び手入については自らもこれが管理に当つたうえで、被告人に対しては右農耕馬四頭の売却斡旋の手続を委任していたものであることろ、
被告人は当初六平に約したとおり一頭六万円見当でしかも六平の滞在する短時日のうちに売りさばく見込がなく、且つ六平から馬は秋田方面に引き上げる旨告げられるや、同人及び有坂に無断で内二頭を引き出して廉価に売却しその代金を取得しようと企て、同月二九日同郡巻町家畜商笹川金三郎方において同人に対し二頭を代金六万円で売却すべきことを告げ、翌三〇日午前六時ごろ前記有坂方馬小屋に至り、ひそかに同所から六平及び有坂の管理に係る前記馬匹四頭のうち(二頭牝馬鹿毛四才一頭、牝馬青毛六才一頭)を前記笹川に売却する目的で引き出して被告人の支配内に収め、もつてこれを窃取したものである。
2(証拠の標目)(省略)
3(法令の適用)
被告人の判示行為は刑法第二三五条に該当するから、
所定刑期範囲内で、被告人を懲役一〇月に処し、
諸般の情状にかんがみて刑の執行を猶予するのを相当と認め、刑法第二五条を適用して、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、
訴訟費用は、刑訴第一八一条第一項に従い、主文第三項掲記のとおり被告人をしてこれを負担させるべきものとする。
4(昭和二七年(わ)第一九六号業務上横領被告事件に対する判断)
被告人に対する業務上横領被告事件の公訴事実の要旨は、
被告人は昭和二五年七月二五日ごろ判示六平健から同人所有の馬四頭の売却方を依頼され、同月二九日内二頭を新潟県西蒲原郡巻町笹川金三郎に代金六万円で売却し、これを業務上保管中、同月三〇日同郡曽根町台丸旅館において六平に右代金を引き渡す際、ほしいままに同人に対し、
「馬二頭を十二万円で売つたが、日曜日で銀行もなく、買主から三万円だけ内金として受け取つたから。」
と嘘の事実を申し向け、その場において残額三万円を着服横領したものである。
というのであるが、
前示認定の事実によれば、被告人が笹川金三郎に馬二頭を売却するに際しては、既にその馬匹に対する窃盗罪が成立しているものであることが明らかである。而して窃盗犯人が盗品をさらに売却処分して得た代金を領得しても、既に成立した窃盗罪とは別個に詐欺、横領罪に問われる余地のないものであるから、本件馬匹の売却代金に対する業務上横領被告事件は罪とならないものといわなければならない。
よつて刑訴第三三六条に則り、この点につき無罪の言渡をすべきものとする。
よつて主文のとおり判決する。(昭和二八年七月一五日新潟地方裁判所)